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広島高等裁判所 昭和35年(ラ)54号 決定 1965年10月20日

第五二号事件抗告人・第五三、五四号事件相手方 村山幸子(仮名) 外五名

第五四号事件抗告人・第五二、五三号事件相手方 石渡敏男承継人 石渡誠治(仮名) 外一名

第五三号事件抗告人・第五二、五四号事件相手方 石渡正男(仮名)

第五二、五三、五四号事件相手方 大平明(仮名)

主文

原審判を取り消す。

本件を広島家庭裁判所に差し戻す。

理由

抗告人等の本件抗告の趣旨と理由は、別紙(一)(二)(三)抗告状記載のとおりである。

原審は、原審判添付遺産分割表第一記載の不動産を石渡敏男、石渡正男、田中ツユコ、大平明の共有とし、同第二記載の不動産を石渡敏男、石渡正男、石田恵子、石渡享、石渡美子、石渡圭子の共有とし、同第三記載の不動産を石渡敏男、石渡正男の共有とする旨定めたのであるが、本件記録によれば、抗告人石渡正男を除くその余の抗告人等は、右正男の酒癖悪く乱暴な性格を嫌つて、同人との共有を望まず、原審以来感情的に対立しており、このままの状態ではいつ融和するとも見通しのつかない情況にあり、前示共有者とせられた各相続人は大平明を除きいずれも、前記各不動産の共有に反対していることを認め得る。このように、共同相続人間に感情的な対立があつて共有を欲しないにも拘らず、当該相続人間の共有による分割方法を定めることは、たとえ、原審判の説く如く、共有者が分割を欲するならば、何時でも分割請求の訴を起し得るとしても、いたずらに将来に紛争の禍根を残すことは明白であつて、遺産分割を家庭裁判所に行わしめることとした法の精神に反し、結局、原審判は、民法第九〇七条及び分割方法決定の基準を明示した民法第九〇六条の規定に違反するものといわねばならない。

次に、原審は、本件遺産分割の審判にあたり、被相続人石渡邦彦の死後、その祖先の祭祀を主宰すべき者を共同相続人の一人である石渡正男と定めたが、本件記録によれば、原審は右指定をなすにつき、旧民法の家の観念にとらわれて審理不尽のきらいがあり、しかも、原審のなした祖先の祭祀を主宰すべき者の指定に関する審判は、実質的にみて、本件遺産分割の審判と一体不可分の関係においてなされたものであると考えられるから、本件遺産分割の審判についてすでに違法が存し、あらためて本件遺産につき分割の審判をなすべきものである以上、右の祖先の祭祀を主宰すべき者の指定についても更に審理を尽し、右分割の審判と同時にこれを定めるのが相当である。したがつて前記指定の審判もまたこれを取消すべきものである。

よつて本件各抗告は、その余の抗告理由について判断するまでもなく、理由のあること明らかであるから、家事審判法第八条、家事審判規則第一九条第一項に従い、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松本冬樹 裁判官 浜田治 裁判官 長谷川茂治)

抗告理由<省略>

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